大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所 昭和48年(ワ)222号 判決

原告

矢野宗毅

ほか一名

被告

相馬利蔵

ほか一名

主文

一  被告らは各自

1  原告矢野に対し金六四万〇、五二〇円及び内金五六万〇、五二〇円に対する昭和四八年八月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

2  原告丸紅設備に対し金五八万円及び内金五一万円に対する昭和四八年八月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その六を原告らの負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決の主文一・1、2は仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告らは各自、原告矢野宗毅に対し金二五八万三、三三五円及び内金二三四万八、四八七円に対する昭和四八年八月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告丸紅設備株式会社に対し金一〇〇万八、一六七円及び内金九一万六、五一六円に対する昭和四八年八月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として

一  本件事故の発生及び原告矢野の傷害治療経過

(一)  昭和四六年三月五日午後九時四〇分頃、宇都宮市鉄砲町三二一六番地先道路上において、被告相馬運転の普通乗用自動車(以下被告車という)が横断歩行中の原告矢野に接触し、この結果同原告は頭部外傷、額部顔面挫創、第六頸椎脱臼骨折、胸部及び左下肢打撲等の傷害を受けた。

(二)  原告矢野は次のとおり右傷害の治療を受けた。

(一) 昭和四六年三月五日から同年五月八日まで六五日間、宇都宮市所在、松村病院に入院。

(二) 同年五月八日から同年七月二〇日まで七四日間、東京都港区所在、虎の門病院整形外科に入院。

(三)  同年七月二一日から昭和四七年七月一四日まで三六〇日間(但し診療実日数二五日)、右病院に通院した。

二  責任原因

被告会社は被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた。

被告相馬は、当時被告会社の社員であり、かつ被告会社代表取締役相馬利一の子であつて、被告会社から被告車を借り受け、連日通勤あるいはレジヤーに使用し、自己のため運行の用に供していた。

従つて被告らはともに自動車損害賠償保障法三条に基づき本件事故によつて原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

(原告矢野について)

(一)  治療費 金四五万六、〇八七円

内訳

1 松村病院(入院) 金三六万四、九三〇円

2 虎の門病院(入、通院) 金九万一、一五七円

(二)  入院関係費(但し治療費を除く) 金二九万一、八八〇円

内訳

1 原告矢野本人の入退院交通費 金三万八、一五〇円

事故現場から松村病院までの救急自動車使用につき、担当消防署に渡した謝礼品(ケーキ)の購入代金四、〇〇〇円を含む。

2 医師、看護婦に対する謝礼 金五万三、四八〇円

菓子折、ウイスキー等の謝礼品購入代金

3 付添費用 金一三万二、〇五〇円

(1) 昭和四六年三月六日から同月一一日までの間、五日間妻の付添。一日金一、五〇〇円の割合による五日分金七、五〇〇円

(2) 同年三月一二日から同年五月八日まで家政婦付添費用金一二万四、五五〇円

4 諸雑費 金六万八、二〇〇円

松村病院入院の六五日間は一日金六〇〇円の割合による金三万九、〇〇〇円

虎の門病院入院の七三日間は一日金四〇〇円の割合による金二万九、二〇〇円。

なお、原告矢野は千葉県柏市内に妻と幼少の子供二人の家族を有して住居を構えていたが、頸椎骨折のため絶対安静が要求されていたので、妻の見舞も多く要求された。このため宇都宮市内松村病院入院中は遠隔地のため家族の交通費等もかさみ、一日金六〇〇円、東京都港区内虎の門病院入院期間中は一日金四〇〇円が相当である。

(三)  逸失利益 金九万円

原告矢野は、当時承継前原告日建設備株式会社に勤務し、工事課長の地位にあつたが、本件事故による傷害の治療のため、事故の翌日である昭和四六年三月六日から同年九月三〇日まで欠勤を余儀なくされた。

そして、若し同原告が右休業期間中就労したならば支給さるべき筈の給料及び賞与の合計額は金一〇〇万六、五一六円であつたところ、就業規則等の定めに従い、欠勤したにもかかわらず、右金額のうち金九一万六、五一六円の支給を受け、この支給額相当の損害が填補されたので、結局同原告が被告らに対し請求することのできる得べかりし利益の喪失による損害額は金九万円である。

(四)  慰藉料 金二〇五万円

原告矢野が本件事故によつて受けた傷害の内容は前記のとおりであつて、その治療のため、入院期間一三八日、通院期間三六〇日(実日数二五日)を要し、頸椎整復固定の大手術を受けた。

しかも右傷害により頸椎奇形(C5・6塊椎形成)、顔面額部に挫創痕(右眉上部に長さ約六センチメートル、右眉横に長さ約二センチメートル)、頸部前面に前記手術による創痕(長さ約八センチメートル)、左腰部に同じく前記手術による創痕(長さ約八センチメートル)の後遺症を残した。

このため同原告の被つた精神的苦痛は大きく、これを慰藉するに足りる金額は金二〇五万円を下らない。

(五)  損害の一部填補

1 原告矢野は本件事故によつて被つた損害の填補として次の金員の支払を受けた。

(1) 自賠責保険金三六万四、九三〇円

前記治療費の一部支払にあてられた。

(2) 被告相馬の支払金一七万四、五五〇円

前記付添費用の一部支払にあてられた。

2 従つて右(1)、(2)の合計金五三万九、四八〇円を前記(一)ないし(四)の各損害金合計金二八八万七、九六七円から差し引くと、金二三四万八、四八七円となる。

(六)  弁護士費用 金二三万四、八四八円

原告訴訟代理人弁護士に本訴の提起追行方を委任し、支払を約した手数料、報酬のうち前記(五)・2の損害金の一割に相当する金額。

(原告会社について)

(七) 原告矢野に対する休業補償金九一万六、五一六円

前記(三)で述べたとおり、原告矢野は本件事故により昭和四六年三月六日から同年九月三〇日まで休業したが、右休業にもかかわらず、承継前原告日建設備は、原告矢野に対し、使用者として、就業規則等の定めに従い、補償金九一万六、五一六円を支給した。

右は、本来、被告らにおいて原告矢野に支払うべき損害賠償金であるので、日建設備はこれによつて原告矢野が被告らに対して有する損害賠償請求権のうち右金九一万六、五一六円の請求権を承継した(民法四二二条または同法五〇〇条)。

(八) 弁護士費用 金九万一、六五一円

原告訴訟代理人弁護士に本訴の提起追行方を委任し、支払を約した手数料報酬のうち前記(七)の損害金の一割に相当する金額。

(九) 承継前原告日建設備は昭和五〇年三月二五日原告丸紅設備に吸収合併され、これにより原告丸紅設備は承継前原告の被告らに対する本訴損害賠償請求権を取得した。

四  請求

よつて被告らに対し連帯して、原告矢野は前記三・(五)、(六)の各損害金合計金二五八万三、三三五円及び内金二三四万八、四八七円(弁護士費用を除いたもの)に対する本訴状送達の翌日である昭和四八年八月二二日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、原告丸紅設備は前記(七)、(八)の各損害金合計金一〇〇万八、一六七円及び内金九一万六、五一六円(弁護士費用を除いたもの)に対する前同日から支払済みに至るまで同じく年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、

被告ら主張の過失相殺の抗弁事実を争い、

本件事故現場付近は、宇都宮市内きつての繁華街であつて、人出の多いところであつて、しかも毎時四〇キロメートルの速度制限区域である。かような道路を被告車は時速約八〇キロメートルの高速度で進行し、しかも被告車の先行車が原告矢野ら横断歩行者があるのを認めて停止しながら、被告車はこれを意に介さず、従前の高速度のままその側方を追い抜こうとして本件事故を発生させたものであつて、すべて被告相馬の過失によると付陳した。

被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、

答弁及び抗弁として

一(一)  請求原因一・(一)の事実中原告矢野の受けた傷害の内容は不知、その余の事実は認める。

同一・(二)の事実は不知。

(二)  同二の事実は認める。

(三)  同三の事実は、次に付加するほかは、同(五)の弁済及び同(九)の合併の事実を認め、損害額は争う。

1  同(二)の事実について

謝礼品代の支出は本件事故と相当因果関係がない。

諸雑費は一日金三〇〇円の割合による一三八日分計金四万一、四〇〇円を超える部分は本件事故と相当因果関係がない。

2  同(四)の慰藉料について

原告矢野が後遺障害として主張する頸椎奇形はレントゲン写真によつて僅かに見出される程度のものであり、しかも同原告は昭和四六年一一月には既にゴルフができる状態にあつたことを考慮すると、後遺障害等級一一級には該当しない。

二  過失相殺

本件事故現場は、歩車道の区別のある、車道部分の幅員二〇メートル、中央線にグリーンベルトがある、片側二車線の車道上であつて、該所には歩行者専用の地下道が設けられている。しかも午前七時から午後七時までは横断禁止の指定がされている。以上の状況からして、右時間外は横断禁止でないにしても、それに準ずべき横断危険な場所である。原告矢野は折角の歩行者専用の地下道を通らず、右のような危険な場所を横断した。かかる場合は十分車両の交通に注意して横断すべきであるのに、同原告は、飲酒してほろ酔いきげんで、安全性の注意が十分できないのに、被告車の直前をかけ足で斜め横断し、本件事故となつた。同原告に重大な過失があり、少なくとも六〇パーセントは相殺さるべきである。

理由

一  本件事故の発生及び原告矢野の傷害治療の経過

(一)  請求原因一・(一)の事実は、原告矢野の傷害の点を除いて、当事者間に争いがなく、そして成立に争いのない甲第二号証の一ないし四、原告矢野本人尋問の結果によると、原告矢野は本件事故によつて頭部外傷、額部顔面挫創、第六頸椎脱臼骨折、胸部及び左下肢打撲の傷害を負つたことが認められる。

(二)  しかして成立に争いのない甲第二、三号証の各一ないし四、原告矢野本人尋問の結果によると、請求原因一・(二)の事実(原告矢野の本件傷害の診療経過)を認めることができる。

二  責任原因

請求原因二の事実は当事者間に争いがない。

そうすると別段の事由がない限り、被告らは自動車損害賠償保障法三条に基づき原告らが本件事故によつて被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

(原告矢野について)

(一)  治療費等 金四五万六、〇八七円

前記甲第三号証の一ないし四、原告矢野本人尋問の結果によると、原告矢野は、本件事故による前記傷害の治療のため、前記一・(二)認定のとおり松村病院及び虎の門病院に入・通院し、その治療費及び診断書料として合計金四五万六、〇八七円の支払義務を負担し、同額の損害を被つたものと認められる。

(二)  入院関係費(治療費を除く) 金二一万八、四〇〇円

1 入退院交通費

原告矢野本人尋問の結果及び同供述により真正に成立したものと認める甲第五号証によると、原告矢野は、前記松村病院(宇都宮市所在)から虎の門病院(東京都港区赤坂所在)への転院及び虎の門病院退院に際して使用した自動車料金三万四、一五〇円を支出し、同額の損害を被つたものと認める。

右のほか、同原告は本件事故発生場所から松村病院までの救急自動車使用につき、担当消防署に渡した謝礼品(ケーキ)の購入代金四、〇〇〇円相当の損害を被つた旨主張し、同原告本人尋問の結果及び同供述により真正に成立したものと認める甲第九号証の一五によると、右金員支出の事実を認めることができるが、他に特段の事情が認められない本件の場合、右謝礼は救急自動車使用の対価としての実質をもたず、厚意に対する儀礼的な贈与と認められ、かような性質の支出は本件事故との間に相当因果関係がないものというべきである。

2 医師看護婦に対する謝礼

前記甲第五号証、原告矢野本人尋問の結果並びに同供述により真正に成立したものと認める同第九号証の一〇八及び同号証の一二三によると、原告矢野は前記松村病院及び虎の門病院の医師、看護婦に対し菓子折、ウイスキー等の謝礼品を与え、その購入代金合計金五万三、四八〇円を支出したことが認められる。しかし同時に右各証拠によると、右謝礼は治療に対する対価としての実質をもたず、入院中の厚意に対する感謝のしるしとして儀礼的に贈与したものであることが認められるから、その性質上、右支出全額をそのまま損害としてその賠償を加害者から取り立てるに適さないものであり、ただ社会通念上是認される範囲のものは後記入院諸雑費のうちに含めて考慮されるべきものと解する。

従つて後記認定の諸雑費のほかにさらに前記謝礼品相当額を本件事故による損害と認めることはできない。

3 付添看護費用

原告が、本件事故による傷害の治療のため、松村病院に昭和四六年三月五日から同年五月八日まで入院したことは前記一・(二)で認定したとおりであるところ、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三、原告矢野本人尋問の結果によると、原告矢野は、本件事故による第六頸椎脱臼骨折のため、松村病院に入院中は終始ベツトでの安静加療を要し、付添看護を要する状態にあつたことが認められる。

しかして前記甲第五号証、成立に争いのない乙第二号証の一、二、同第三号証の一ないし四、原告矢野本人尋問の結果によると、原告は、右認定の要付添看護期間のうち、昭和四六年三月一二日から同年五月八日までの間、家政婦を雇つて付添看護を受け、その料金一二万四、五五〇円の支払義務を負担したほか、昭和四六年三月六日から同月一二日までのうち五日間、妻による無償の付添看護を受けたことが認められるので、妻の右付添看護については一日金一、〇〇〇円の割合による五日分計金五、〇〇〇円を損害と認める。

従つて原告は付添看護費用合計金一二万九、五五〇円の損害を被つたことになる。

4 諸雑費

前記一・(二)で認定したとおり原告矢野は松村病院と虎の門病院に計一三八日の入院生活を余儀なくされた。しかして原告矢野本人尋問の結果によると、原告矢野は当時千葉県柏市内に妻と幼少の子二人の家族を有して住居を構えていて、とくに宇都宮市に所在する松村病院とは遠隔であつて、右家族の付添、見舞の交通費等もかさんだことが認められ、この事情に本件傷害の内容、程度、入院期間その他諸般の事情を斟酌すると、右入院中の諸雑費は、前記松村病院入院の六五日については一日金五〇〇円の割合による計金三万二、五〇〇円、虎の門病院入院の七四日については一日金三〇〇円の割合による計金二万二、二〇〇円、以上合計金五万四、七〇〇円を同原告の損害と認める。

(三)  逸失利益 金九万円

証人吉田剛士の証言、原告矢野本人尋問の結果及び同供述により真正に成立したものと認める甲第四号証、甲第六号証によると、原告矢野は、本件事故当時、承継前原告日建設備株式会社に勤務し、工事課長の地位にあつたが、前記一・(二)で認定したとおり本件事故による傷害治療のため入通院し、このため事故の翌日である昭和四六年三月六日から同年九月三〇日まで就労不能となつたこと、同原告が右期間就労したならば支給さるべき筈の給料及び賞与の合計額は金一〇〇万六、五一六円であつたから、本来ならば同原告は右金額相当の得べかりし利益を失うことになるわけであるが、就業規則等の定めに従い、欠勤にもかかわらず、日建設備から右金額のうち金九一万六、五一六円を補償されたので、結局同原告は残金九万円の得べかりし収入を失い、同額の損害を被つたものと認められる。

(四)  慰藉料

前記一認定のとおり、原告矢野は本件事故により頭部外傷、額部顔面挫創、第六頸椎脱臼骨折、胸部及び左下肢打僕の傷害を受け、これが治療のため計一三八日入院し、また診療実日数二五日の通院加療を余儀なくされた。しかも成立に争いのない甲第七号証の一ないし五及び原告矢野本人尋問の結果によると、顔面、頸部等に同原告主張のような創痕を残して醜状を呈していることが認められ、さらに成立に争いのない甲第八号証によると、後遺症として、外形上はわからないが、レントゲン検査により頸椎に奇形(C5・6塊椎形成)を残していることが認められ、この点につき同号証診断書には、虎の門病院担当医師の意見として、右頸椎の奇形が第一一級の五とすべきかどうかは裁定に委ねると付記されており、また原告矢野本人尋問の結果によると、右後遺症は運動機能に制限をもたらすとか、あるいはその他日常生活に格別の影響を与える程の症状を伴うものではないが、ただ相当時間根をつめた仕事を継続すると、後頭部が重苦しく感じられるようになるという程度のものであることが認められる。

そこで右認定事実に本件にあらわれた一切の事情を斟酌すると、原告矢野が本件事故によつて被つた精神的苦痛を慰藉するに足りる金額は金一二〇万円をもつて相当と認める。

(五)  過失相殺

1 成立に争いのない乙第一号証、証人関沢武夫及び同鈴木博道の各証言並びに原告矢野及び被告相馬各本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

(1) 本件事故現場は国鉄宇都宮駅前から池上町方面に向かつて宇都宮市内を東西に貫く幹線道路上であつて、付近道路両側には商店等が建ち並び、同市内で最も繁華な市街地域であること。

事故現場の道路状況は、車道幅員が約二一メートルの、歩車道の区別がある、アスフアルト舗装の直線道路であつて、県公安委員会により車両の速度は毎時四〇キロメートルと制限されているが、他方事故地点の直下には歩行者用の横断地下道が設置され、路上横断は午前九時から午後七時まで禁止されていること。そして本件事故発生の時刻は午後九時四〇分頃であつて、右横断禁止の指定は解除されていたが、当時路上を横断する歩行者は少なく、車両の交通は比較的頻繁であつたこと。

(2) 原告矢野は、当日午後六時半頃から同七時半頃にかけて近くの料理屋で食事のかたわら日本酒を銚子二本位飲んだが、事故発生当時には格別酔つている自覚もなく、足取りも確かであつたこと。そして事故発生の際、同原告は同僚の訴外鈴木博道と連れ立つて、本件道路を南(右)から北(左)に向かつて横断を開始し、同道路中央分離帯を越えた直後、左方池上町方面から接近してきた自動車一台を認めたが、同車が停車してくれたので、急ぎ足でその前方を通り抜けたところ、折柄前記自動車の左側方を後方から時速約六〇キロメートルで追い抜いてきた被告車右前部に接触し、本件事故となつたこと。

以上のように認められ、被告相馬本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

2 右認定の事実によれば、時速四〇キロメートルの速度制限区域を時速約六〇キロメートルで進行し、しかも直近歩行者を認めて停止した車両があるのに、その側方を徐行することなく追い抜こうとした被告車側に著しい過失があることはもちろんであるが、他方、直近に歩行者用の横断地下道がありながらこれを利用せず、車両の交通頻繁な前認定のごとき本件道路を、車両との交通安全を確認しないで横断した原告にも相当の過失があつたものと認められる。

3 そこで原告矢野の被つた前記(一)ないし(四)の各損害合計金一九六万四、四八七円について、同原告の前記過失を斟酌し、その約四五パーセントにあたる額を控除し、結局被告らが同原告に対し賠償すべき右損害額は金一一〇万円をもつて相当と認める。

しかして同原告が、本件事故による損害の填補として、自賠責保険金三六万四、九三〇円と被告相馬から金一七万四、五五〇円、以上合計金五三万九、四八〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、右金額を前記損害額から差し引くと、本訴において同原告が被告らに対し請求し得る損害金は金五六万〇、五二〇円となる。

(六)  弁護士費用 金八万円

原告矢野が同原告訴訟代理人に本訴の提起、追行方を委任し、かつ同原告主張のように手数料報酬等を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、右認定事実に前記認定の損害額、本訴の経過及び事件の難易等を考慮すると、同原告が被告らに対し請求し得る相当因果関係のある損害としての弁護士費用は金八万円をもつて相当と認める。

(原告会社について)

(七) 原告矢野に対する休業補償金九一万六、五一六円

前記(三)で認定したとおり承継前原告日建設備は原告矢野が欠勤したにもかかわらず、就業規則の定めに従い給与金九一万六、五一六円を支給し、これにより日建設備は民法四二二条の規定の趣旨に従い原告矢野の被告らに対する右賠償請求権を取得したものというべきである。

(八) 過失相殺

前記(五)で認定したとおり本件事故の発生については原告矢野にも相当の過失があつたから、右損害金九一万六、五一六円について、同原告の右過失を斟酌し、その約四五パーセントにあたる額を控除し、結局被告らが日建設備に対し賠償すべき右損害額は金五一万円をもつて相当と認める。

しかして承継前原告日建設備が昭和五〇年三月二五日原告丸紅設備に吸収合併されたことは当事者間に争いがないから、これにより同原告は右損害賠償請求権を取得したものである。

(九) 弁護士費用 金七万円

承継前原告日建設備及び原告丸紅設備が同原告訴訟代理人に本訴の提起、追行方を委任し、かつ同原告主張のように手数料報酬等を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、前記認定の損害額、本訴の経過及び事件の難易等を考慮すると、同原告が被告らに対し請求し得る相当因果関係のある損害としての弁護士費用は金七万円をもつて相当と認める。

四  結論

以上の次第によつて、被告らは連帯して、原告矢野に対し前記三の(五)、(六)の各損害金合計金六四万〇、五二〇円及び内金五六万〇、五二〇円(弁護士費用を除いたもの)に対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年八月二二日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、原告丸紅設備に対し前記三の(八)、(九)の各損害金合計金五八万円及び内金五一万円(弁護士費用を除いたもの)に対する前同日から支払済に至るまで同じく年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告らの被告らに対する本訴各請求は右金員の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべく、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺康次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例